部屋の前に立って扉のノブに手をかける。あれほど武器庫の中で考えに考えた癖にまた決心が揺らいでいた。シャンクスになんて言って声をかければいいのか。伝えないといけないことがたくさんありすぎて、どうやって伝えてどうやって解決していけばいいのか、何が最前なのか。さっき答えを出したはずなのに。まだ私は迷っている。
カチャァン――
ドアノブを回してもいないのに扉が開いた。俯いていた顔を上げたらそこにはシャンクスが立っていて、彼はとても深刻そうな顔をして私を見つめていた。あのね、と言葉を出す前に左腕を引かれて彼の胸の中に倒れ込んだ。バタン――と閉まった扉の音を聞きながらゆっくりと目を閉じた。
とくんとくんと鳴る彼の鼓動が聞こえる。彼の体温が私を包み込んで不安な気持ちがゆっくりと溶けだしていった。
「悪かった」
「……ううん」
顔を上げられなかった。私も……って言葉が出そうになるのを堪えて奥歯を噛みしめる。なんて言ったらいいんだ。
「……?」
私の様子がおかしいことに気づいたのか、シャンクスがどうしたと首を傾げながら私の顔をのぞき込んだ。伝えないといけないって分かっているのに、うまく言葉で出てこない。不甲斐ない自分が恥ずかしくてだんだんと目元に涙が溜まっていった。
「おい、どうした!?」
ついに流れ出した滴が頬を伝い落ちていく。シャンクスは抱きしめていた腕を緩めてその滴を指で拭ってくれた。そして頭に手を置いて優しく撫でてくれる。
「あのね。私シャンクスに言わないといけないことがあって」
「なんだ?」
「お……こらないで聞いてくれる?」
「あぁ。聞く」
「さっき武器庫でね、ベックマンと話してたの」
「ん、あぁそれか。ベックマンから聞いた。今はそっとしとけって」
「え……じゃあ、キ、ス……も?」
「…………は?」
あ、……これやっぱ言っちゃいけないことだったと自分の失言に気づいたときにはもうシャンクスは鬼の形相をしていて。慌てて彼のシャツに手を伸ばしたけれど遅かった。私が瞬きを2、3回した後にはもうそこにシャンクスの姿はなかった。開きっぱなしの部屋の扉が私の罪悪感を逆撫で、後悔の念を抱かせた。
ガッシャァ――――ンッ!!!!
食堂から聞こえた盛大な音。慌てて駆け込んだ。思った通りそこには互いに互いの胸ぐらを掴んでいるシャンクスとベックマンの姿。
「ふざけんなてめェ!!!」
「ふざけてなんかねェよ。この船に乗っている奴らはみんなが可愛いと思ってんだ。お頭だってそうだろ」
「なっ!!!?」
「ちょっと二人とも何やってんの!! やめてっ!!」
やれやれ―!! と二人を煽る周りのクル―達に睨みをきかせながら二人の間に割って入った。どう考えたって私の力じゃ二人を引きはがせない。でも、一応二人は私には甘いところがあるから。ね? ね? と二人の顔を下から覗き込んだら胸ぐらを掴んでいた二人の手がゆっくりと離れていった。ほっと胸をなで下ろしながらそれでも睨み合いを続けている二人を見つめた。
「自分が船の船長だからって鷹をくくってると痛い目見るって言ってんだ俺は」
「は?」
「現にはあっさりと俺にキスされているんだぞ」
シャンクスよりも冷静な口振りでベックマンが言った。また余計な一言を……顔を歪める。
「あぁもう分かった! じゃあお前等はを見るな」
「え、ちょ……シャンクス何言ってんの」
「あと話もするな。禁止。これ船長命令だから!!」
「は、……はい?」
海賊において船長命令というのは絶対で。もしこれを破るなら裏切りに相当する……っていう。それは公私混同し過ぎなんじゃ、と抗議しようとしたら、さっきまで喧嘩腰だったベックマンがなぜか満足そうに笑っている。
「あぁそうだな。それがいいだろう」
「え、あの……ベックマンさん?」
まさか、と嫌な予感。じゃ、そうと決まればさっそくと私を腕を引いて食堂から出ていこうとするシャンクスに引かれるがままついていく。部屋から出る間際ベックマンの方を見たら「悪いな」と、彼の口が動くのが見えた。
まさか計画的犯行!!?
シャンクスは食堂の扉を閉める間際足を止めて振り返って言う。
「特にベックマン! お前はもう二度とと話すんな!!」
「ちょ、いくらなんでもそれは……」
「うるせ、は俺の女なのに手を出した奴が悪い!」
ん、まぁ……そりゃそうだけど。もし私の思った通りならこれはすべてベックマンの計画的犯行で。だとしたら、等の本人は涼しい顔をしているに違いない。……なんて男だ。
自室に連れ込まれた私は次の造船所に着き次第船を改造するとシャンクスから話を聞いた。どうやら彼は本気らしい。本当に私を誰の目にも触れさせないようにするつもりだ。当然私も抗議した。でも……あまりに必死なシャンクスの姿を見ていたら、折れるしかなかった。
彼は怒鳴り散らすわけでもなく、私を咎め罰するわけでもなく。ただ……ただただ私に囁いた。私を抱きしめて側にいてほしいとずっとずっとここに居てシャンクスの愛を受け入れて欲しいと囁いた。
拒否する理由なんてない。
「しゃん……くす」
「壁分厚くするから」
「……気にするのそこ?」
「だっての声誰にも聞かせたくねェんだ」
「大丈夫。我慢するよ」
「やだ。俺は聞きたい」
「わがまま……」
「あぁ俺はわがままなんだ。知らなかったのか」
「…………」
「は俺のだ。は俺以外と話すな。俺以外を見るな。は……」
「私はシャンクスのものだよ」
「……なぁ。俺はを"もの"扱いなんてしねェから。そんな風に言うなよ」
「…………じゃ私はシャンクスの何?」
「愛する人、だろ」
「ふふふ、じゃあ私にとってシャンクスは愛する人、だよ」
「あぁ」
二日なんて待てない。それは互いに口に出さなくても分かった。だから目を閉じて唇を重ねた。シャンクスはまるで私の唇を洗うようにして何度も何度も唇を重ねた。
「ベックマンのこと攻めないで」
「…………」
「彼はきっと……「他の奴の名前を言うな。が言っていいのは俺の名前だけだろ」…………うん」
ベッドの上に押し倒されて彼の舌が首筋を這う。
「煙草の臭いがする」
「それは……」
「あぁもう。クソッ」
「シャンクス?」
「、めちゃくちゃにしたい」
「…………うん」
「抱いていいか」
「いいよ。私もシャンクスが欲しい」
「いいのか。俺なしじゃ生きられないようにするぞ」
「…………して欲しい」
ぎらぎらと目を光らせたシャンクスが私の下着を抜き取って割れ目に指を這わしながら唇を重ねた。快感を吐き出せない体は身をよじることでなんとか理性を保つ。でもそれもいつまで持つか。彼が本気になれば私の理性なんてすぐになくなるんだろう。今まではきっと手加減してくれていただろうから。
息継ぎの時に漏れる吐息すら外に漏れているんじゃないかって思うとどきどきした。ときどき扉の向こうから聞こえてくるバタバタという足音が体をビクつかせる。興奮してんのか、と耳元で囁く彼の声が頭に響いてそれだけでイキそうだった。
そして瞼を閉じると彼がまた愛を囁いた。