それは幸せな人生の絶頂に起こった。彼が死んだ。でもこの世界じゃよくある日常的なできごとだった。特にこの海賊の世界においては。
「ごめん。私、船を降りる」
船長の部屋に入って、唐突にそう告げた。
入ってすぐは「どうした?」と首を傾げているだけだったシャンクスがイスから背中を浮かせて向き直る。静かに目を伏せて数秒、ゆっくりと顔を上げた彼が言った。
「この船を降りて生きていけると思っているのか?」
「えぇもちろん。これでも元は商人の娘ですから」
「……」
「…………ごめんなさい。拾ってもらった分際で勝手なことを言って。でももうここにはいられそうにないから」
「……あいつのことは残念だった。だが、自業自得だ。勝手な行動に出たからな」
「そんなっ……」
シャンクスの言っていることは間違っていない。この世界では団体行動ができなければ削り落とされてしまう。もしそれでも単独で行動するというなら、自分の身は自分で守らないといけない。私の彼はそれを知った上で行動し、守れなかったのだ。
「あの人は結婚しようって……それで、資金を集めるからって」
「それで、帰って来なかったと」
「…………」
「お前を残してひとりで先走って、そんな奴のためにお前までひとりになる気か?」
「……ここには思い出があり過ぎる」
初めてキスをした場所も初めて愛し合った場所も。朝の挨拶を交わしながら海原を一緒に眺めた場所も。結婚を誓いあった場所も……そのすべてがここにあった。だから――
「覚悟の上だろ」
「それは……」
もちろん。覚悟の上だった。でもまさかこんなに早く結末がやってくるなんて。……私ちゃんと理解して覚悟していたはずなのに。今更。今更私……、
「後悔してるのか」
「……そんなわけないでしょ」
人生を捧げる相手だと確信していたんだから。……認めたくない。後悔しているなんて。
「じゃあ、残れ」
「え?」
「後悔してねェんなら、残れ。あいつと過ごした時間をお前が背負ってやらねぇで誰が背負うっていうんだ。覚悟決めていたんだろ」
「……うん」
「じゃあ、残れ」
そう言うと、シャンクスはそれっきり口を開かなかった。私は言い返す言葉も思い浮かばなくて、ただそれに従うことしかできなかった。両手を握りしめて、頭を下げ、その場を後にした。
シャンクスにしては冷たい一言だったな。その夜、ベッドに入って天井を見上げながら思った。私が知っている彼なら「辛かったな」と背中を撫でて一緒に泣いてくれそうなのに。情の深い人――それがシャンクスだと思っていた。
まぁ、私も彼のことをよく知っていたわけじゃないから、知らない一面があってもおかしくはない。……ただ、彼のこと、悪く言って欲しくなかったなと少し残念に思った。あんな風に人のことを言うシャンクスの姿、見たくなかった。彼はいつだって、私たちのことを大切にしてくれていたから、いつだってそうだと思っていたんだ。