「はぁ〜」
寒い。もう3月というのに。
いつもの駅。
ここは私とあの人と彼女が出会ったところ。
なんてことはない。私がすっころんであの人が助けてくれて、それを見ていた彼女もすっころんで、3人で笑った。そんなところ。
いつもの看板。
彼女がいなくなってから、まだ付き合う前。よく彼が待ち合わせ場所に指定してきたところ。苦い苦い恋の始まりの場所。
コツコツコツ。
ヒールの音がよく響く駅内。小さなショップが並ぶストリートを抜ければ広場に出る。広場の向こうには改札口があり、正面から見て、左側にその看板はあった。
看板にはめざせ! 東大の文字。あれ、また広告変わったんじゃない? 前はなんだっけな? そう首をひねる。自然と足が止まった。遠くから見ても分かるあの人の存在。こらこら、喫煙所じゃないんだぞと昔の私ならひっついていたんだろうな。今はモクモクと立ち上る煙にどう対応するべきかと悩んでいた。
まだ、まだ…・・
顔を見たら、決心していた心が揺らいだ。
一歩後ずさりすると、コツン。大きく音が鳴った。しまったと思ったときには、すでにあの人にその音は聞こえていて、どこか私の様子がおかしいことに気づき、こちらへと歩いてきた。
だめだ、今はまだ、会えない。
きびすを返した私は走った。足には少し自信があったけど、でもあの人に勝てるわけもなく。駅前の通りに出たところで腕を捕まれた。あぁ、空が曇り始めた。そんなどうでもいいようなことを考えていた。
「どうしたんだ?」
はぁ、はぁと少し肩を揺らす目の前の人。同じく、いや、それ以上に肩を揺らしていた私はやんわりと彼の腕を解いてもらう。その人は少し驚いていた。
「ねぇ」
「……?」
あぁ、その首を傾げる仕草も。
「知ってた?」
「あァ?」
その素の返事がちょっと怖いところも。
「私、しばらく家に帰っていないんだよ」
「……」
その目をまん丸にして驚く表情も。
「……」
「……本当か?」
頭を抱えて考え込む仕草も。
本当だよ、きっとそのときの私の笑顔は泣いていたと思う。ねぇ、聞いて。ねぇ、私の話を聞いて。私のことを見て。私を、ちゃんと見て! そう、泣いていたと思う。
固まったその人を見るのは初めてだったので、私も少し驚いて固まってしまった。首を振り、すぐに気を取り戻す。
ポツ――――
ポツ――――
雨だ。
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