「」
ポツ――――
「すまない……」
ポツ――――
その言葉に首を振る。聞きたくない。今はもう、そんな言葉聞きたくない。
すぐに土砂降りになった雨。私はその人の胸をそっと押した。そっちには屋根があるから。そこに入れば濡れないから。
ザ――――
「、こっちへ」
ザ――――
しっかりと視線を合わせて、もう一度首を横に振った。
ザ―
「何やってんだ」
強引で、自分勝手なそのあなたの行動も今日でおしまいにしよう?
捕まれた手を振り払うことなく、私は空いている自分の手でその人のネクタイを掴み、引き寄せた。
チュッ
あぁ、いつぶりだろう。こうやって、あなたとキスをするのは。私からするのなんて、たぶんこれが初めてだ。
そして、これが……
「おしまい」
捕まれていた手はいつの間にか離されていた。本当に驚いたのだろう。手と体を離して、距離を取る。再び私の耳にザーザーという雨の音が響いた。
「愛していたよ。大好きだったよ」
「……過去形か?」
小さな声。珍しい。しかめっつらにそう思う。
「大切な人ができたの」
「だから、ここでおしまいにしよう」
「……」
「もう、恋人ごっこは……おしまい」
ね?
「……」
無言の彼は今にも泣き出してしまいそうに見えた。今ここで抱きしめてはダメ、そう自分に言い聞かせた。本当はまだ、少し、気持ちは残っていたりする。でも、それは、あなたと同じで、どこか別の……出会ったばかりのあなたに対する気持ちだと思うから。
「ありがとう、スモーカー」
「……あぁ」
最後に愛しい人の名を呼ぶ。あぁ、名前を呼ぶのでさえ、久しぶりだったと気づく。
彼は振り向くと、元気でなと言ってくれた。うん、小さく返した後、彼の後ろ姿をしばらく見ていた。彼の右手には2枚の切符が握りしめられていた。切符、買ってくれていたんだ。こんな日に限って、あなたは優しいんだね。
ザ―ザ―と降る雨のせいで、多少の声はもみ消される。良かった。そう思う。
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